【#5.中小企業の人材育成戦略】基礎を見直す5つの業績改善ポイント

中小企業の業績改善コラム

現役経営コンサルタントが活用!業績改善に役立つチェックリスト48』の記事に基づいて、9つのカテゴリーごとに、改善ポイントの詳細をお伝えしていきます。

今回は【#5 人材育成戦略】。
「人材育成戦略」は、外部企業での研修などに参加させること?「人事評価制度」等を整備すること?社員1人ひとりのモチベーションをアップすることを考える中小企業経営者さんも居るかもしれません。

【1】経営戦略
【2】マーケティング戦略
【3】商品戦略
【4】採用戦略
【5】人材育成戦略
【6】会計戦略
【7】経営計画
【8】経営者のブレイクスルー
【9】まとめのマインドセット

ところが、業績が低迷する中小企業(主に年商1億円以下・全体の80%前後の中小企業)に求められているものは、もっともっと手前にある基礎的な事柄になります。それをここでは見直していきましょう。

業績改善に役立つチェックリスト48
全ての項目を見たい方は
こちらの記事をチェック!

この記事の著者です!

青木忠志(あおき ただし)

■経営コンサル歴20年
■日本建築塗装職人の会 会長
■アサヒリフォーム有限会社2代目代表取締役(現名誉会長)
経営改善実績700社以上・相談実績7,000件以上
『職人の会式 塗装店経営法』開発
『繁盛親方-工事店DXアプリ開発

出版情報

「いちばんやさしい工事店経営の教科書」(ダイヤモンド社)
「のび太くん採用」(サンライズパブリッシング)
「百年企業のつくり方」(フローラル出版)

目次

組織図を明確にできているか?

「人材育成戦略」からの業績改善の1つ目の視点は、「組織図を明確に出来ているか?」です。

なぜなら、中小企業の社員が仕事に対するモチベーションが低いことの原因として、仕事自体が明確に定義されていないということが挙げられるのを、私はこれまで実体験として数多く見てきたためです。

仕事を定義するためには、部門(部署)を分け、業務範囲を決める必要があります。業務範囲を決めるということは同時に組織図を決めることにも繋がります。その後「部門」の中で「役職」が出来、「部門の責任者」が決まります。

図は一例として、小さな工事店の例ですが、中小企業の場合には、このような「組織図」が明確に定義されていないため、適切な職種の人材が集まりにくいことがほとんどなのです。

そのような中小企業の経営者さんは、「採用しても、うちには良い人が来ない…」と言い、求人会社等の担当者から見ると「この会社はまだ会社が出来ていない状態」と見られる傾向があります。

そのような状況の中小企業こそ、まず「組織図」をイメージし、「部門」「役職」「部門の責任者」を明確に設計していくことが大切です。(その後、次の「業務マニュアル」を作成していくという流れになります。)

業務マニュアルの作成ができているか?

「人材育成戦略」からの業績改善の2つ目の視点は、「業務マニュアルの作成ができているか?」です。

上の項の組織図と業務範囲でも述べましたとおり、組織図と業務範囲を設計したら、次には「業務マニュアル」の作成を行います。なぜなら、中小企業で人材が育たない理由は、基本業務を実行する流れが明文化されていないことだと考えられるからです。

それでも仕事が回っていることがあったとしたら、仕事ができる人材が経営者の求める業務をあうんの呼吸で掴んで実行しているだけであることがほとんどではないでしょうか。しかし、そのような状況を打破するのが「業務マニュアル」です。

業務マニュアルを作成することで、以下のようなことが期待できるでしょう。

  • 採用の幅が広がる・・・業務マニュアルができることで、これまで仕事を覚えることができなかった人をも採用することができるようになるため、採用の幅が広がります。
  • 社員が成長するようになる・・・定型業務を覚える速度が速くなり、その結果、仕事の応用もできるようになり、結果的に社員の成長を実現できるようになります。
  • 会社が成長するようになる・・・社員が成長したら、部下を育成できるようにもなります。すると、業務を部下に任せていくことができるようになるので、社長はさらに会社を発展させる仕事に取り組むことができるようになり、上司が育ち、会社が成長します。
  • 社長のマネジメント能力も高まる・・・業務マニュアルがあることで、社長から社員への業務的な指示も、より分かりやすくなります。その結果、マネジメント時間・マネジメントコストも大幅に短縮されることになります。
  • 自社の独自性が明確になっていき、他社との差別化も明確になっていく・・・業務マニュアルに則って業務を行うことで、仕事に対する正しいPDCAが起きるようになります。その結果、自社の独自性がさらに開花し、他社との差別化も明確になっていきます。

このような業務マニュアルを作成するのは、中小企業の場合は社長の仕事となります。それ以外(社長以外)ではありません。なぜなら、社長が考える仕事が見える社員が居ないことがほとんどだからですし、社長が考える仕事を社員に共有していくことが大事だからです。

作成の仕方は、まずはスプレッドシート(Excel)やドキュメント(Word)等へ「箇条書き」からスタートでOKです。

上記を記載後、写真や説明等を入れる「マニュアル」を作成していくという手順で行ってみてください。

よく、「どの業務からマニュアルを作成すればよいのですか?」というご質問をいただきますが、目標は社業全ての業務マニュアルを作成することとし、成果に直結する部分から作成していくことを目標にしてみてください。

また、どのような中小企業でも会社の全ての業務をマニュアル化するとしたら、(詳細まで記載するのであれば)おそらく100ページ以上にはなるのだと思います。100ページ以上にもなる業務内容を、口頭伝達とOJTだけで教えようとしてきたことを想像すると、ぞっとしますよね。

▲マニュアルのサンプル

自社を深く考える機会になる!
社長は「業務マニュアル」をまとめる時間を通して、さらに自社を深く理解する機会が与えられます。自社を深く理解することを通して、自社を共有していくスピードも速まります。
このようなことからも、中小企業社長は自分に与えられた時間の全てを事業に注ぐ気持ちで、まずは「業務マニュアル」の作成に力を入れましょう。

社員の仕事能力を「見える化」できているか?

 「人材育成戦略」からの業績改善の3つ目の視点は、社員1人ひとりの仕事能力を「見える化」できないか?です。

なぜなら、社長は社員を「能力に合った最適配置を行う立場」だからです。そのため、どのような仕事能力を持っているのかを理解していなければならないからです。

一方で、低迷する中小企業では、社員1人ひとりの仕事能力が目に見えないケースが多々あります。そこで「業務マニュアル」に合わせた「スキルチェックシート」なるものを作成して、社員の仕事能力を「見える化」していきましょう。

これにより、正しい組織ができ、社員1人ひとりに対して正しい評価を与えることができるようになり、その結果、会社の発展に繋がっていきます。

ですので「業務マニュアル」が出来た後には、必然的に「スキルチェックシート」にもなるわけで、そのシートに基づき、チェックしていくことで、社員1人ひとりの仕事能力を「見える化」していくことが実現できます。

また、参考までにですが、「スキルチェックシート」の作成方法と活用方法については、厚生労働省のWEBサイトより以下の資料を無料でダウンロードでき、とても参考になりますので、ご覧になってみてください。

厚生労働省WEBサイトより
人材育成への活用方法シートPDF

部門ごとに「責任者」を任命できているか?

「人材育成戦略」からの業績改善の4つ目の視点は、「部門ごとに必ず全てに責任者を任命できているか?」です。

なぜなら、中小企業が低迷している時、もしくは事業のボトルネックに差し掛かっている時、各部門の責任者を任命していないことが多々あるからです。各部門の責任者を”任命しないこと”は結果的に社長が兼務していることになります。

会社の小さな時期はそれでも良いでしょうが、会社が成長すると同時に、徐々に、それぞれの部門の責任者=部長(課長・係長・主任・・肩書は適切に検討)を任せていくことが求められます。いわゆる、社長の仕事(権限と責任)を部下に任せていくということになります。これが停滞のボトルネックを突破する方法となり、責任者を任せていける範囲で会社は成長していきます。

そのためには「それぞれの部門の責任者」が行う「業務マニュアル」も、まとめていく必要性があるということになりますが。

責任者を変えられないか?

 「人材組織戦略」からの業績改善の5つ目の視点は「責任者を変えられないか?」です。

中小企業が低迷している時、もしくは事業のボトルネックに差し掛かっている時、残念ながら責任者がその仕事を果たしていないということもよくあります。そのような時には、早期に責任者を変えることが経営上、賢明な判断となります。変えるシグナルは以下のとおりです。

中小企業によくある責任者変更のシグナル

  • その「責任者」は直上の指示に従うことができない
  • その「責任者」は継続的に部下からの愚痴が出る
  • その「責任者」は仕事での成果を挙げられない

これらの時に、中小企業社長は身近な人などに「その責任者が仕事ができないこと」に対して愚痴を漏らしていたりする傾向も高くあります。そのようなシグナルが出ている時には、潔く「その責任者」を変える決断をすることが求められます。

変えるタイミングは、特に業績が悪化している時であれば、月や期の替わり目等のタイミングを待たず、できる限り早いほうが良いでしょう。

また、その責任者の替わりの人材が居ないから替えることができないというケースもあります。そのようなケースでは、有無を言わず社長がその人に変わって「責任者」を兼務することをおすすめします。

このような人事に対して、中小企業経営者は誰にも聞くことができませんが、「自分がこの事業を通してやるべきこと」を明確にした上で、自らの直感に従ったほうがよいでしょう。その直感が間違っていなければ、社員の皆様からの「反対意見が無い」という賛同を得られるはずだからです。


お疲れ様でした。以上が、「人材育成戦略」からの5つの見直し・改善ポイントでした。

次は、【業績改善シリーズ #6 会計戦略】についてです。

累計700社以上の中小企業の
“経営危機”“業績改善”
一部始終を間近でみてきた、
現役経営コンサルタントが活用する
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